一人称の代名詞「私」は、日常会話からビジネスシーン、特に就職活動の面接などで頻繁に使用されます。
しかし、「わたし」と「わたくし」のどちらを使用すべきかについて疑問を持つ方も多いです。
この記事では、一人称「私」の使い方と、その表記の違いについて詳細に説明しています。
「わたし」と「わたくし」の由来と使用の違い
「私」という一人称代名詞は、日本語において非常に一般的に使われますが、「わたし」と「わたくし」という二つの読み方が存在します。これらの違いを理解するために、まず辞書での定義を見てみましょう。
【私(わたし)】
《「わたくし」の音変化》一人称の人代名詞。「わたくし」のくだけた言い方。現代では自分のことをさす最も一般的な語で、男女とも用いる。近世では主に女性が用いた。「—の家はこの近くです」「—としたことが」出典:デジタル大辞泉(小学館)
【私(わたくし)】
1 自分一人に関係のあること。個人的なこと。「—の用事で欠勤する」⇔公 (おおやけ) 。
2 公平さを欠いて、自分の都合や利益を優先すること。また、公共のための事物を私物化すること。「—をはかる」
「造物主は天地万象を造りて—なし」〈逍遥・小説神髄〉
3 公然でないこと。秘密であること。「—に処する」
[代]一人称の人代名詞。多く、目上の人に対する時や、やや改まった場合に用いる。男女ともに使う。出典:デジタル大辞泉(小学館)
歴史的背景を振り返ると、「わたくし」は平安時代の『源氏物語』にその使用例が見られ、「わたくしにも心のどかにまかで給へ」といった文が記されています。また、「私事」「私立」「私小説」といった熟語も元々は「わたくし」と読まれていました。
江戸時代を経て近代に入ると、「わたし」という形が一般化し、特に明治時代以降に広く使われるようになりました。現代では、「わたし」と「わたくし」の両方が使われていますが、「わたし」がより日常的に用いられることが多いです。
2008年には文部科学省によって、「私」の訓読みとして「わたし」が正式に「わたくし」と共に認められました。これにより、現代ではどちらの読み方も正式なものとされています。
以上の情報から、「わたくし」はよりフォーマルな文脈で使われる傾向があり、「わたし」は日常的な会話や文書で広く用いられる形です。
「わたし」の意味と適用
「わたし」とは、一人称代名詞であり、日常的な会話や文書において使用される表現です。漢字で「私」と書かれ、男女問わずに使用可能で、親しい間柄だけでなく、目上の人に対しても適切な言葉です。
日本語には様々な一人称代名詞があり、「僕」「俺」「あたし」「うち」や自分の名前を使うこともあります。これらの中で「わたし」は比較的カジュアルながらも、あまりにくだけすぎず、広範囲のコンテキストで使うことができるバランスの取れた言い方とされています。
例えば、「うち」やは非常にカジュアルで親密な関係でのみ使用されることが多いですが、
「わたし」はビジネスシーンや公式の場にも適応し、幅広い相手に対して使える汎用性の高い一人称です。
特に、女性が使用する場合は非常に自然であり、男性が使う場合は少し堅苦しい印象を与えることがあります。日本人の間では、男性は「僕」や「俺」といったより個人的な代名詞を好む傾向があるため、「わたし」の使用はややフォーマルな印象を与えることが多いです。
「わたくし」の使用法とその意味
「わたくし」は、一人称代名詞であり、形式的で丁寧なコンテキストで使用される表現です。漢字では「私」と書かれ、特に目上の人や公式の場において適切です。
この表現は、特に公的な場や正式なシチュエーションで好まれます。たとえば、就職面接、公の演説、または結婚式のスピーチなどで耳にすることが多いです。
【例】
- 「わたくしは、株式会社○○にて接客業務に従事して参りました。」
- 「本日はわたくしたちの結婚式にご臨席賜り、誠にありがとうございます。」
- 「わたくしが政治家として目指すのは、経済の再生と社会問題の解決です。」
日常的な会話やカジュアルな文脈では、この表現はほとんど用いられません。例えば、カジュアルな食事の際に「わたくしはカレーを選びました」と言うのは自然ではないでしょう。
「わたくし」は、一般的にはより堅苦しいか形式的な状況でのみ使われることが推奨され、敬語と組み合わせて使用されることが一般的ですが、敬語を必ず伴う必要はありません。日常会話での使用も不可能ではありませんが、一般的には「わたし」が用いられます。
男女問わず使用することができる点では「わたし」と共通しています。
公用文での「わたし」と「わたくし」の使い分け
公用文や公式文書における一人称の表記については、内閣府が示す『事務次官等会議申し合わせ』が基準となります。このガイドラインでは、漢字を用いる代名詞の使用について明確な指示がされています。具体的には、「彼」「私」「我々」のような代名詞は漢字で記述することが推奨されています。
出典:『事務次官等会議申し合わせ』
この基準に基づき、一般的な公用文では「私」の漢字表記が用いられます。
さらに、「わたし」と「わたくし」の選択については、文部科学省の『これからの敬語』にも参考情報があります。この文書によると、「わたし」は標準形として推奨され、「わたくし」はより改まった文脈で使用されることが建議されています。また、女性の発音において「あたくし」「あたし」といった形が認められるものの、標準形は性別を問わず「わたし」「わたくし」とされています。
教育の場では、「ぼく」は男子学生に限られ、社会人になると「わたし」への移行が促されます。また、「じぶん」の使用は避けるべきとされています。
従って、公用文では「私」という漢字が基本であり、文脈によって「わたし」または「わたくし」という読み方が選ばれます。「わたし」が一般的であり、「わたくし」は特に改まった場合に選ばれることが多いです。
「私」(わたし・わたくし)のまとめ
この記事を通じて、「わたし」と「わたくし」の違いと適切な使い方について説明しました。
- 「わたし」と「わたくし」の起源: 「わたくし」はより古い表現であり、平安時代から使われています。「わたし」はその簡略形として比較的新しく生まれた言葉です。
- 使用状況: 「わたし」は日常的な会話や一般的な文書で広く使われる表現です。一方、「わたくし」は公的または正式な場で使われることが多く、より格式を要する状況に適しています。
- 公用文での表記: 公用文では「私」と漢字で書くのが基本ですが、ひらがなで書く場合は「わたし」が一般的です。ただし、よりフォーマルな文脈では「わたくし」を使用します。
- 適切な使い方: 一般的な日常会話では「わたし」を使用し、就職面接や公式な演説などでは「わたくし」を選ぶことが推奨されます。
これらのポイントを理解し、状況に応じて「わたし」と「わたくし」を適切に使い分けることが重要です。