「足りない」と「足らない」の正しい使い方とは?

言葉の意味・使い方

「足りない」という表現は、必要な量や質が充分でない状態を指します。

一方、「足らない」という表現も似た意味を持ちますが、これらの使い方にはどのような違いがあるのでしょうか?

この記事では、「足りない」と「足らない」の意味の違いや、それぞれの文脈での正しい使い方について掘り下げて説明しています。両表現は日常生活やビジネスシーンで頻繁に使われますが、微妙なニュアンスの違いを理解することで、より適切な日本語が使えるようになります。

 

「足らない」と「足りない」の選択

どちらの表現も日本語として誤りではないため、「足らない」と「足りない」はどちらも正確な使い方があります。

しかし、現代日本語においては、「足りない」がより一般的に使われています。

「足る」という動詞は五段活用で、「足りる」という動詞は一段活用です。五段活用の「足る」は歴史的に古く、古事記や万葉集などの古典文学に見られます。対して、「足りる」という形は江戸時代以降、特に江戸地域で使われ始めた新しい形です。

文法的に見ると、五段活用と一段活用の違いは以下の通りです:

  • 五段活用(足る):ら、り、る、れ、ろ(未然形、連用形、終止形、連体形、命令形)
  • 一段活用(足りる):り、りる、りれ、りろ(連用形、終止形、仮定形、命令形)

現在の標準語としての「足りない」は、これが特に口語で広く受け入れられています。

一方で、「足る」から来る「足らない」も文学的な表現や方言として残っています。

たとえば、江戸時代には上方語の「足る」と江戸語の「足りる」が使われており、この時代の言葉の変遷を通じて「足りる」が標準語に取り入れられました。

このような背景から、「足りない」が現代ではより一般的に使われる形となっていますが、文学的な文脈や歴史的な記述をする際には「足らない」も見かけます。

 

「足らない」と「足りない」の使用頻度

過去の調査結果に基づくと、「足らない」と「足りない」の使用には明確な差があります。具体的なデータを持つ調査の一つに、国立国語研究所による昭和24年の調査があります。この調査は東京都内で行われ、600人の大人が対象でした。

結果は以下の通りです:

  • 「足りない」を選んだ割合は88%。
  • 「足らない」を選んだ割合は12%。

この調査以外にも、東京都内の約30校の小学生を対象にした調査では、「足りない」を選ぶ割合が90%前後であったと報告されています。これらのデータは、国立国語研究所年報に収録されています。

この傾向は、現代の日本語使用でも変わらず、一般に「足りない」の形が主流であることを示しています。これは、言葉の変化として、五段活用の動詞「借る」「飽る」が一段活用の「借りる」「飽きる」へと変遷している点と類似しています。

関西地方では、「借らない」「飽かない」などの形が方言として残っている場合もありますが、全国的には「足りない」の使用が一般的であると考えられます。

 

「足らない」の使用状況

「足らない」という表現は現代日本語においても完全には消滅していません。「足りない」が一般的になっているとはいえ、特定の文脈や表現において「足らない」を用いる例は存在します。

例えば、「飲み足らない」「物足らない」「しゃべり足らない」といった複合動詞の形では、「足らない」がよく用いられています。これらは、二つ以上の単語が結合して新しい意味を形成する例です。

さらに、「取るに足らない」や「四十に足らない」といった慣用句にも「足らない」が用いられます。これらの表現では、特に否定形の古い助動詞「ぬ(ん)」を伴うことが多く、そのために「足らない」が自然と用いられることがあります。

文学作品においても、「足らない」は依然として用いられており、古典的な調子を出すために敢えてこの形を選ぶ作家もいます。このような用法は、現代文だけでなく、過去の文学においても見られる特徴です。

 

「足りない」と「足らない」の適切な使い方

本記事では、「足りない」と「足らない」の適切な使い分けについて解説します。現代日本語では、「足りない」が一般的に使用されています。これは時間の経過と共に「足りない」の表現が優勢になったためです。

元々、「足らない」も広く用いられていましたが、今日では主に特定の文脈でのみ見ることができます。たとえば、「飲み足らない」や「物足らない」といった複合動詞や、「取るに足らない」のような慣用句で「足らない」が使用される場合があります。

このため、日常会話や現代の文書では「足りない」を使用することが推奨されています。ただし、文学作品や詩的な表現では、古い形式や表現の豊かさを出すために「足らない」を選ぶこともあります。

結論として、現代の標準的な用法では「足りない」を選ぶのが無難ですが、特定の文脈や表現で「足らない」が適切な場合もあることを理解しておくと良いでしょう。

 

「足らない」と「足りない」の整理

この記事を通じて、「足らない」と「足りない」の言葉の使い分けについて見てきました。これらの言葉は両方とも「何かが足りていない」という状況を示しますが、使われる文脈には差があります。

「足らない」という表現は五段活用の形をとり、「足りない」は上一段活用の形をとります。文法的な違いはあれど、基本的な意味は変わりません。

現代の標準的な使い方では、「足りない」が一般的に用いられていますが、「足らない」も特定の状況下で、例えば複合動詞や慣用句、または文学的な文脈で使用されることがあります。

この違いを理解し、状況に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。

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